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奈良家庭裁判所 平成4年(家イ)19号 審判 1992年12月16日

申立人 梅田春子 外2名

相手方 三田村和幸

主文

申立人ら3名が相手方の嫡出子であることを否認する。

理由

1  申立人らは主文同旨の審判を求め、本件調停期日において、申立人らと相手方との間に、主文同旨の審判を受けることについて合意が成立し、申立人らが相手方の嫡出子でないことについて当事者間に争いがない。

2  本件審理の結果によって認められる事実は、次のとおりである。

申立人ら法定代理人梅田久子(以下、単に久子と記す)と相手方は昭和56年11月2日婚姻の届出をした夫婦であったが、昭和60年末ごろから別居し、昭和61年3月31日に協議離婚の届出をした。

その後、久子は現在の夫である梅田一郎と平成元年8月28日に婚姻した。

久子は相手方と結婚する前から梅田一郎と肉体関係があり、そのことを相手方に隠して結婚した後も、同様な関係を続けていたもので、たまたま相手方が夜勤明けに早めに帰宅したとき、一郎と同じ床で寝ているのを見つけられてしまったが、相手方は結局久子の謝罪を受け入れ、二度と過ちを犯さないという言葉を信じて、その場は収まった。

しかし久子は、その後も相手方の目を盗んで一郎との関係を続け、申立人春子、同夏子が生まれたときも、久子は一郎の子だと思ったが、相手方と一郎の血液型が、どちらもA型であるため、相手方は疑わず、自分の子だと信じていた。このような久子の不貞行為が重なるにつれ、夫婦の間が冷えて行き、上記のとおり、昭和60年末ごろ、久子が春子と夏子を連れて一方的に別居し、昭和61年2月ごろ、久子の署名押印がある離婚届を郵送し、相手方がこれに署名押印して、同年3月31日に協議離婚の届出をした。

久子は同年7月7日に申立人秋子を出産したが、離婚後300日以内の出産なので、出生の届出をすれば相手方の戸籍に嫡出子として記載されるため、これを届け出ないまま、現在に至っている。

もっとも久子が申立人秋子を懐胎したと推定される時期には、久子は未だ相手方と同居してはいたが、夫婦の交わりはほとんどなくなっていた。

このように申立人ら3名のうち、申立人春子、同夏子は、久子が相手方との夫婦関係を保ちながら、同時に梅田一郎との男女関係を重ねていた時期に懐胎した子であり、申立人秋子も久子が相手方との夫婦関係が全く断絶するには至らないうちに懐胎した子であって、しかもABO式血液型においては、申立人3名はすべてA型であり、久子、相手方、梅田一郎の3名もまた、すべてA型に属するため、本件申立て当時には、申立人らの父が梅田一郎であるか相手方であるかは、客観的には断定できない状況にあったが、当裁判所が鑑定人○○○○に命じた血液型検査による鑑定の結果によれば、申立人3名は、いずれも赤血球酵素型の一種であるPGM型において、1A型(1A/1A)に属し、母の久子は2A-1A型(2A/1A)に属するので、申立人らは父母の双方から、それぞれ1A遺伝子を受けていることになるが、相手方は2A-1B型(2A/1B)に属し、1A遺伝子を持っていないから、申立人らの父ではあり得ず、一方梅田一郎は1A型(1A/1A)であるので、申立人らの父であることに矛盾がなく、その他数種の血液型検査の結果でも、相手方と申立人らとの父子関係が否定されるのに対し、梅田一郎と申立人らとの父子関係には矛盾が生じないことが明らかになった。

すなわち相手方と申立人3名との父子関係は、科学的証明により、疑問の余地なく否定されたことになる。

3  上記の事実関係によれば、申立人らは民法772条により、相手方の嫡出子であることの推定を受け、この推定をくつがえすには、本来は父とされる立場にある相手方から、申立人らが相手方の子であることを否認する嫡出否認の訴または調停を申し立てるべきである。

しかし家事審判法23条の合意に相当する審判は、調停委員会の調停において、当事者間にその旨の審判を受ける合意が成立し、その合意が正当と認められる限り、なされるものであるから、子から父に対する申立てがあった場合でも、父がこれに応じてその旨の審判を受けることに合意するならば、合意に相当する審判をすることは差し支えないと解すべきで、子からの親子関係不存在確認の申立てが、子からの嫡出子否認の申立てに変更され、子と父との間に合意が成立した本件では、その合意が正当である限り、嫡出否認の審判をなすべきである。

また民法777条によれば、嫡出子否認の訴は、夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起することを要するとされているが、その規定の趣旨は、その文理にかかわらず、夫が否認の原因を知ったときからと解するのが相当で、本件の場合、相手方は久子の不貞を知ってはいたが、申立人春子、同夏子については、本件の申立てを受けるまで、相手方の子であると信じていたものであり、申立人秋子については、その出生の事実を知らなかったものであって、上記の血液検査の結果によって、はじめて申立人らが相手方の子ではあり得ないことが明らかになったのであるから、本件において当事者間に成立した申立人らが相手方の嫡出子であることを否認するとの合意に相当する審判をなすことは、上記の出訴期間の定めによっても、妨げられないというべきである。

よって当裁判所は、調停委員会を組織する家事調停委員岡原和子及び同平岡尚一の各意見を聴き、当事者間に成立した主文同旨の合意を正当と認め、家事審判法23条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 山田眞也)

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